.研究の必要性と波及効果

 
強磁場分野は80年代から90年代に日本が世界をリードする地位にあった。欧米ではこの成功に学んで、90年代半ばからアメリカの国立強磁場研究所に代表されるグローバルな研究拠点形成を進め、戦略的目標として、定常磁場50テスラ、非破壊パルス磁場100テスラの実現とそのもとでの超精密計測系の構築による物質科学の推進が目指されている。非破壊100テスラの発生とこれを用いた物質研究は1930年代からの宿願であり、これをいち早く達成してサイエンスを展開した国が今後の強磁場下の物性科学において大きな優位性を保つであろう事は疑いをいれない。従って、100テスラ領域の強磁場スピン科学を立ち上げることが緊急に必要であり、その帰趨は日本の物質科学全体に大きな影響がある。

 本特定領域を緊急に進める事は、日本における計測科学や関連産業の空洞化をくい止めるためにも重要である。今日、諸外国の強磁場施設で研究され、世界的成果として宣伝されている新物質やそれにかかわるサイエンスは、日本発のものが相当ある。そのような成果流失の背景には、研究基盤能力として重要な計測・評価に十分な投資がなされていないことが一因である。極端条件である強磁場中の計測は、先端計測技術の揺籃と試練の場となってきた。計測科学分野のポテンシャルを高めるためには、強磁場中のスピン計測のような先端計測科学へのてこ入れがぜひとも必要である。諸外国にこの分野の基礎を押さえられてしまえば、将来にわたって日本発の独創的成果をあげ、知的財産を蓄積することは不可能になる。この事は蛋白構造解析における高分解能NMRなどの例をあげるまでもない。先端計測科学は優れて基礎科学の側面をもつ。物質の新しい性質を測ることは、新しい計測原理と極限的な機器開発はもとより、計測できる性質や量の概念の開拓まで含む。従って、基礎科学としての計測科学は、応用計測科学の基盤として新しい原理や概念の探求を担い、またその実現が新しい物質観を開く鍵となる。

 強磁場研究の物性科学における役割として重要な点は、それが手段を軸とするゆえに学際的、萌芽的研究を育む基盤となってきた点にある。また、日本独自の共同利用型研究がこれを支えてきた。このように強磁場研究は物性研究の基盤として、材料科学、半導体科学、情報科学、生命科学などへの波及効果は極めて大きく、その伸長を図ることは極めて大きな意義がある。



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